ありふれたもの 1  大凡人 


学生の頃に観たテレビのクイズ番組が、今でも記憶に残っている。


それは、1986年、日曜日の夜7時からの、古館伊知郎が司会をしていた視聴者参加の30分のクイズ番組で、回答者達は、正しい答えよりも、より多くの人が選んだ答えを選ぶことで勝ち残るという妙な趣向だったはずだ。

そして最後まで残った勝者達は、凡人のなかの凡人で、「大凡人」と呼ばれ、番組のエンディングでは、彼らの顔が、カメラで一人ずつ大写しにされて、会場からの「ダイボンジンコール」に讃えられながら終わるというものだった。

この番組は,4ヶ月で打ち切りになったらしく、私はほんの何回かだけ、偶然に見ていたにすぎないようだが、その異様な熱気は今も忘れられない。


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その頃の私は、大学4年生になったばかりで、美術の作家をめざす進路にほぼ心を固めつつあった。

そして、美術の作家というのは、凡人には及ばない、きらめくような才能を持った人や、性格に独特の癖のあるような人、変わった人、おもしろい人、特別な人にしかなることができないと考えていた。


ところが、そんな作家を目指そうとしている自分自身が「普通な自分」であることに悩んでいた。

これといって特徴もなくて、一度会った人から「君誰だっけ?」と言われたりする目立たない自分。
大学の課題でも、目の付けどころ、考えること、作り出すもの、どれも「個性的」とは反対の「ありふれた」自分に向き合うのだった。


そんな時期だったので、堂々とした「大凡人コール」の熱気には、勇気をもらった。

そして、自分に「特別」という幻想を追いかけるのは違うのかもしれない、
普通であることに自信をもっても良いのかもしれないと、思い始めた。

それは、「ありふれた自分」のなかにある「なにか」にきちんと向き合えば、そのままで特別な存在なのだ、という思考の感触だった。


「大切なものは、特別なことよりも、むしろありふれたことの中にある」。
そうだったらいいなと、その頃から考えるようになった。



(終)




2011.02.17 | | コメント(0) | トラックバック(0) | よしなしごと

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