「四角の話」展 報告


先週、京都で一日だけの展覧会を開いた。


場所は、西陣の「かみ添」。ここは唐紙(からかみ)職人の嘉戸浩(かど・こう)氏のお店で、昔ながらの商店街に面した古い木造の店舗を、嘉戸さんが自らの繊細な唐紙で整えた空間だ。

ここで、「四角の話」と題して、私の陶粉画や立体、写真作品を、嘉戸さんの唐紙とともに並べてみようという企画だった。
 

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去年、初めてかみ添を訪れた時、この空間の清げな設えに触発された。

通りに面した北側の窓から入ってくる柔らかい光が、土間に階調をつくりながら、棚の脇、通路、座敷、そして店の奥へと段階的に弱まっている。

それは、ここまでやって来る道々の喧噪で高ぶった気持ちが、店の中で鎮まっていく過程でもあるようだった。
奥の座敷に腰掛けて、弱い光のなかでこそ鮮やかに浮かぶ唐紙を見ていると、ものを感受する感覚が鎮静していく快さを覚えた。

私はそこに身を置くうちに、この場所に私の作品で関わってみたくなった。


作品とは、「そこに在るもの」と名付けた陶の立体で、粘土を手で四角く積み上げて焼いたもののことをいう。
また、平面作品も描いていて、これは「何か」と名付けている。陶立体「そこに在るもの」を作る粘土を粉にして焼いたものや、山や畑の土を焼いてつくった陶粉で描くので、陶粉画とよんでいる。

平面も立体も、四角いこと、手だけでかたちを作ること、やきものであること、さらに、それが何処にどのように在って、観る人とどのように繋がるのか、ということが大切なテーマとなっている。

はじめは、作品と唐紙と空間との私的な実験として、ここに作品を置いて眺めるつもりだった。でもせっかくなので、と森桜さんのコーディネートで、1日だけの展覧会に発展した。

店の広さから考えて、一度にお招きする人数を5人程度とし、各回1時間30分の観覧を一日で4回持った。合計で25人程をお招きした。
各回の観覧では、嘉戸さんがそうしてくれたように、私と嘉戸さんが、それぞれの仕事のことを話す。
「四角の話」。

また、話の時間には、薄茶とこの会のために日月餅の石田嘉宏さんが制作した和菓子をお出しすることにもなった。


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モノを見て帰るというだけの展示ではなく、私の作品や嘉戸さんの唐紙を前に、座って眺めたり、歩いたり、触れたりする時間のなかで、観る人の五感がひらいて、感受性が澄んでいくような展覧会。

作品は観念の産物としてあるだけではなく、置かれた場所からの影響を受け、また場所にも、そして人にも影響を与えている、という当たり前のことを、そのまま豊かさとして感じられるような空間であり、展示でありたいと思った。


作品というモノだけを見せるなら、白い壁で囲まれたホワイトキューブのほうが、展示を考え易い。

展覧会の前日に作品の設置を始めた時、嘉戸さんが「この店は、一見シンプルだけど、かなり装飾が施してある。襖や壁の唐紙の模様は、実は派手なのだが、尹さん大丈夫か?」と心配して声をかけてくれた。

確かに、展覧会が終わって考えてみると、かみ添の空間は、展示にはそうやさしい場所ではなかったと理解できる。しかし、思いつきの当初から会の終わりまで、何を選び、どこに置くかについて、さほどの困難さを感じなかった。
不思議といえば不思議だ。

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かみ添での展示


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いつもと違う作品も展示した。

2年前に一度だけ発表した、写真作品「はざかい」をそっと並べた。

所沢の私のアトリエの雑木林の中に、ほぼ20年置かれて苔むした作品がある。その表面には、偶然にも、今描いている陶粉画と同じ構図の地と図が浮かんでいたので、ビニールで覆いをして運び込み、外に置いてみた。(同じ構図の陶粉画も展示した。)

作品の他に、陶粉画の画材として自分で作っている陶粉自体もガラスの筒に入れて並べた。

また、四角の話というタイトルにちなんで、去年の春ロンドンで過ごした80日間に出会った、アンティーク「四角いものコレクション」も置いてみた。

それと、薄茶を点てる河原尚子さんのsioneの器に混ぜて、私が20代で作った茶碗もこっそりと混ぜた。

来て下さった皆さんには、さして広くはないこの場所ながらも、作品、空間、そして人との出会いの時間を、ゆったりと楽しんでもらえたようだ。
「狭くても、深く」、そんな内容の展覧会があっても良いのだろう。

場所柄、多くの条件を限ることで成りたった今回の展覧会だったが、私が受けとった果実と種は両手をあわせた器からあふれている。この成果が活かされて、もっとたくさんの人に見てもらえる別の機会が、必ずあるだろう。


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かくして、初めてづくしの一日だけの展覧会が終わり、私は東京に戻り、かみ添も以前の日常に戻った頃、嘉戸さんがメールをくれた。

『「そこに在るもの」がなくなった店内にいると、作品の存在感を感じずにはいれません。 「こういうことね。」と嫁と話していました。もちろん勝手な解釈ですが。』

嬉しかった。 


(終)




 * 「四角の話」というタイトルは、嘉戸さんとの出会いのきっかけを作ってくれた、総合地球環境学研究所の鞍田崇さんにつけていただいた。          


関係者のブログ

◯かみ添/嘉戸浩
http://kamisoe.exblog.jp/

◯sione/河原尚子
http://ameblo.jp/springshow/

◯日月餅/石田嘉宏
http://nichigetsumochi.jp/



2011.01.31 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 報告

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